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「三言語翻訳」のリスク

ここで言う「三言語翻訳」とは、翻訳元言語から翻訳先言語に直接翻訳するのではなく、途中に英語をはさむ(たとえばスペイン語→英語→日本語という順序での翻訳)という翻訳の仕方です。
もしかしたら専用の用語があるのかもしれませんが、残念ながら存じませんので勝手に用語を作りました。

上記の「スペイン語→英語→日本語」の例でいうと、スペイン語から多言語への翻訳をしようとする際に、まずスペイン語→英語への翻訳を行い、英語版から各言語への翻訳を行うという作業が行われ、その一環として日本語版が作成される、という場合が多くあります。
また、スペイン語版の存在は知らなかったが、すでに英語版が存在しているので、そこから日本語版を作った、という場合もあるでしょう。
要するに、翻訳元言語から直接翻訳するより、英語から翻訳する方が翻訳しやすいのです。翻訳できる人もその方が多いですから。

ところが、翻訳には誤訳というリスクがつきものです。三言語翻訳の場合

  1. 2回の翻訳でそれぞれ誤訳が発生し、最終翻訳先では原形をとどめない表現になってしまう可能性がある
  2. 最初の英語への翻訳に誤訳があると、それが各言語版に伝染する

という、直接翻訳の場合よりも恐ろしいリスクがあります。
1番の例でいうと、日本語→英語で「腕」が「chest」(胸)と訳され、さらにこの chest が「箱」の意味と誤解されたため英語→スペイン語で「arca」と訳されてしまい、もはや体の一部ですらない!という事例を見たことがあります。

2番もなかなか深刻です。たとえば、レオン王国(スペインの前身となった国のひとつ)のオルドーニョ2世という国王に関するウィキペディア・スペイン語版の記事(2015年12月30日閲覧)を見ると、

sometió a su autoridad única los territorios del reino leonés
([分裂状態にあった] レオン王国を自分一人の権力のもとに統合した)

とあるのですが、これが英語版(2015年12月30日閲覧)になると

submitted only the territories of the kingdom of Leon under his control

となっています。
スペイン語版では「唯一の」という意味の「única」が「autoridad(権力)」にかかっていますが、英語版ではこれを「only(唯一の、~だけ)」と訳し、「territories(領土)」にかけてしまっているのです。
日本語版(2015年12月30日閲覧)はどうやらこの英語版をもとに作られているようで、この箇所は

自分の管理化に置かれたレオン王国の領土のみを従属させ

となってしまっています。

というわけで、英語以外の言語からの翻訳は、できれば英語版経由ではなく、原語からの直接翻訳が望ましいと考えています。
ウィキペディア記事の翻訳を手がけている人は、このことをぜひ念頭においていただければと思います。

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